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水鏡

水鏡

 

 

穏やかにたゆたう湖の上を

一筋の風が競争のように駆け抜けた

 

水面は風でジグザグな山を作り

表面をキラキラと尖った色で反射させた

 

ふたつめの風が吹き抜けた時だった

水辺に咲いていた花が湖に叩きつけられたのだ

花は顔を強く打ったが

一枚の花びらを犠牲にし

すぐにバウンドして元に戻った

 

花は震えるように小刻みに揺れた

一枚の花びらを中心に水の輪が広がってゆく

 

花びらは沈みかけた小舟のようになって

助けを求めているようだった

 

花と風との一瞬の戦い

 

勝って嬉しい花一もんめ

負けて悔しい花一もんめ

 

そして

「あの子が欲しい」と歌ったのは湖だった

一枚の花びらを得たのだ

 

湖は欲張りだった

水面には空があり雲が流れ太陽が落ちていた

 

僕は空を覗き込んだ

足元に空が広がっているのだ

 

僕は空に挟まれたような気持ちになり

南米ボリビアのウユニ塩湖を思い出した

 

だが

この湖には行き止まりがある

空の全てを映すことはできないのだ

 

切り取られた空が湖に張り付いていた

雲は湖の画面からはみ出していた

僕は本物の空を見上げて意味もなく少し安心した

 

夜になるとこの湖は星を奪うだろが

どうせ朝には返さなければならない

 

それが水鏡の宿命