僕は言葉を自由に操りたい

それが僕に残された最後の生き方なのだと

 

「もう十分生きたからさっさと逝くね」と

身体を壊した母が言う

 

「一ヶ月に一度は帰ってらっしゃい」

顔が見たいのだと言う

 

今年に入ってから僕は

それを忠実に守っている

 

そんなことを考えている傍で

買ってきたばかりの百合の花を妻がハサミで切っている

 

真っ白なゆりの花はすぐに黄ばんだ色になり頭を垂れる

綺麗なうちにどれだけ観てあげられるのだろう

 

子供の頃周りは誰もが貧しかった

なので貧しかったという記憶はない

 

ある日台所の不動明王を飾ってあった棚に

忘れられたかのような五円玉が置いてあった

 

ちょうどそれは目の高さのところにあった

託された葛藤

僕はその五円玉を盗んで駄菓子屋に行ったのだ

 

日が暮れるまで遊んだ後

夕暮れのカラスのようになって家に帰ったら

母は玄関に仁王立ちになって

僕の頬を打った

あの頃の強い母はもういない

 

小さくなった母の手を引き

母の歩幅に合わせて歩く

間もなくそれもできなくなるだろう

 

僕は僕の人生に大きな借りを作ってしまった

この借りは何としても返さねばならない

 

時代のハンドルを握らねばならない

残された時間はそれほど多くはないのだ

 

「母さんが元気なうちにオマエの歌う姿を見せてやれ」と父が言う

その約束は果たせるだろうか

 

やがて囲いから解き放たれ

僕が無心に歌を歌っている時

母はどこでそれを見ているのだろう