奇跡的な出会い

あれは、いつのことだったかなぁ。はっきり覚えておりません。この話は、ステージでも語ったことがあるので、覚えてられる方は多いと思います。

大阪でした。ライブが終わった夜に、メンバーと外人クラブに行ったのです。

外国人さんの女性たちは、僕の顔を知らないので、とてもリラックスして楽しめました。そのクラブで、当時「近鉄バファロース」の野球選手と会ったのです。レイノルズと言います。レイノルズは、僕の顔も、歌も知ってくれていました。車の中では「いつもCHAGE&ASKAの曲を聴いてるんだよ」と。

30分くらい話をしたかなぁ。その時、レイノルズが言ったんです。

 

ASKAは東京でカサノバには行ってないの?」

カサノバって何?」

「ここと同じような外人クラブだよ。ぜひ、お勧めするから、行ってごらんよ。ママには、僕から伝えておくから。レイノルズの紹介だと言って。」

 

それから、数週間後、当時「ASKAバンド」の松本晃彦(踊る大捜査線の音楽を担当したミュージシャン。現在ロサンジェルスに拠点を移し、ハリウッド映画などを手がけている)と、松本のマニピュレーターの森下晃、それと僕の三人で六本木のカサノバに足を運びました。そこは、六本木の中心部から歩いて5分のところにありました。ビルの地下一階でした。

 

「こんばんは。レイノルズに紹介されて来たのですが。」

「あー!ASKAちゃん。連絡あったわよ。」

 

ママ(推定65歳前後)とは初めてお会いしたのに、そんな感じはしませんでした。懐かしい人に会ったような気持ちになりました。そして、4人掛けのテーブルに座って話をすることになるのです。会話の中で、ママが音楽の話をし出しました。日本に訪れる様々な外タレが、この店に寄るのだと。

 

「松本さんのご家族で、音楽をやってらっしゃる方はいるの?」

 

松本は答えました。

 

「僕には姉がいて、アメリカに住んでいるのですが、ハリウッド音楽を制作しています。それと、叔父に『松本英彦』(世界的なテナーサックスプレイヤー)というのがいます。」

「えっ!? ひでちゃん?あなた、ひでちゃんの甥っ子さんなの?」

「知ってるんですか?」

「知ってるもなにも、私の主人と同じバンドでやってたのよ。」

 

ママのご主人は、ベーシストで、その昔『なるちゃん』と呼ばれていた有名なベーシストだったのです。現在は、引退して昔を懐かしむ生活をしているとのことでした。僕は言いました。

 

「へぇ。凄いねぇ。いきなり繋がったね。」

「あらま、ビックリ。ASKAちゃんはどう?ご家族に音楽やってる方がいるの?」

「ウチは、オヤジが自衛官で剣道をやっていまして、僕も剣道づけだったし、音楽とは無縁だったですねぇ。あ、でもひとり親戚に『水野純交』というクラリネットプレイヤーがおりまして・・。」

 

空気が変わりました。

 

「純交ちゃん!?」

「え?知ってますか?」

「だって、ウチの主人と英ちゃんと、純交ちゃん。同じバンドだったのよ。よーく、知ってるわよ。」

 

奇跡です。こんな繋がりってありますか?ママはもちろん、松本との縁を感じました。叔父さんが、同じバンドだったなんて。それが時を超えて現在一緒にやってるわけですから。更に、話は森下に振られました。

 

「森下さんは?」

 

森下は、こんな奇跡の出会いが自分で止まってしまうのを嫌い、躊躇したのです。

 

「いや、僕のオヤジはしがないカントリー歌手なんで、有名ではありませんから。」

「何言ってるの。カントリーって素敵なのよ。私は、お店を数軒持ってたことがあってね、その時に店で歌ってくれていたカントリーシンガーが、本当に素敵で素敵で。あの人、日本で一番のカントリーシンガーだと思うわ・・。」

 

遠くを見るような目で優しく語りました。その時です。

 

「あら!?その人、森下さんって言うんだけど・・。」

 

まさか・・。胸が高鳴ります。

 

「あなた、まさかあの森下さんの息子さんじゃないの?」

 

森下は、戸惑いました。せっかく三人が運命的な出会いをしているのに、自分で途切れることが怖かったのだと思います。

 

「ママさん、森下違いですよ。オヤジからはそんな話は聞いたことがありませんし・・。」

「でもねぇ、どこかあなた、その森下さんに似てるわよ。」

 

僕は、言いました。

 

「森下、電話してみろよ。」

「いやぁ、もう寝てると思いますし。」

「電話、してみろって。」

 

森下は、しぶしぶ携帯を取り出し、電話しました。電話は、すぐに繋がりました。会話をしています。僕たち三人は、それを見守りました。

 

「えーっ!?本当に!?信じられない。そうなんだ?」

 

やはり、森下のお父さんでした。ママの店で歌っていたことがあったのです。こんな偶然、奇跡ってあるのでしょうか?その後、僕たちは、ママの店に通いました。僕たち三人は、見えない力によって出会ったのだと思っています。その後、ママは六本木の店をたたみ、現在では、僕の家に遊びに来たり、時には泊まったりしています。

つづく・・。

もとい、ASKA