札幌カウントダウンライブ

2003年のできごとです、札幌ドームで「カウントダウンライブ」をやることになったのです。2003年から2004年を迎えるカウントダウンライブです。キャッチフレーズは、

 

「今年は札幌に決定いたしました」

 

春先から準備が始まりました。イベンターと、何度もやり取りを交わし、不備のないよう綿密な打ち合わせを繰り返したのです。オーディエンスは、全国から足を運んでくれるでしょう。まずは、ホテルの確保です。旅行代理店などが、それを行うことになりました。次に足回りです。真夜中の1時から1時半にはライブは終了となります。ライブ成功の絵を浮かべていました。そんな時、問題が発生したのです。電車、バスが最終時刻を回り、動かないと言うのです。

 

「申し訳ありません。ここにきてどうにもならない状況になってしまいました。」

 

「交渉はしているが、上手く運びそうにない」とのことでした。ライブ後にオーディエンスが、家へ、ホテルへ帰る手段が無くなってしまったのです。真冬の札幌です。

 

「それでは、お客さんが困ります。もう、発表してしまってます。」

「今も、何とかできるように交渉を続けています。」

「確率はどのくらいですか?」

「ほぼ、ありません。」

「何としても100%にしてください。お願いします。」

「・・。」

 

僕らは、路頭に迷いました。

 

大きな問題です。そのようなライブはやる側もテンションがあがりますので、タイムスケジュールどおり、きっかり1時にライブを終了することができるでしょうか。もし、そのような場合が発生してしまった場合のことを想定して、電車、バスの始発まで、ツアーの記録映画、ライブの二部構成など、いろんなアイデアがバトルされました。イベンターは、それでもそうなるようにバス、電車会社と何度も交渉を繰り返してしてくれたのですが、最終結果はノーでした。前例がないということでした、僕らはデジタル時計のような、時間に狂いのないライブを強いられることとなったのです。その頃、行っていたライブツアーの先々で、「カウントダウンライブ」の発表。そして、オーディエンスに向かい「大晦日は札幌に集まろう!」と、ステージから投げかけ回ってました。全てを計画通りに進行させなくてはならない立場に立たされました。準備は着々と進んでいるかのように見えたのに・・。

 

もう一度言いますが、札幌です。真冬です。記録映画、二部構成が間に合わなければ、お客さんに、始発まで時間を潰してもらわなくてはなりません。ライブの中止も考えました。しかし、ここに来て今更な話です。最悪のできごとです。

 

そして、更に問題が発生いたしました。ドームのスケジュールを押さえることはできていたのですが、札幌ドームを管轄する警察から「中止のお願い」が来てしまったのです。警備ができないとのことでした。4万人以上が集まる場所には、いろんなことが起きます。その警備ができないというのです。ふたつの問題の前では、開催はもう無理であろうということを伝えてきました。悪夢です。

 

上で、述べましたように、カウントダウンライブの発表はしてしまっています。どうにもならない物理的な問題。目の前に大きな壁が立ちふさがってしまいました。どう、中止を発表すれば良いのでしょう。今更、退けません。警察は、頑なでした。僕は、もう自ら動かなくてはならないと考え、ドームを管轄する警察署長に会いに行くことを決めました。しかし、会ってくれないというのです。署長も人です。会ってしまうと、断れなくなるというということでした。

 

人を動かすのは、最後には情熱です。話だけは聞いて頂きたいと伝えました。何度かやり取りが交わされ、やっと、お会いできるところまで、たどり着けたのです。そのツアー中、僕は青森のライブ翌日に、札幌へ飛びました。

署長はとても穏やかな方でした。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。」

「初めまして。ASKAです。」

 

署長は開口一番、

 

「まず最初に、コンサートはできないということを、お伝えしなければなりません。」

 

話は、結果から始まりました。

 

「話は伺っております。今日は、思いの丈だけを述べさせてください。」

 

20分ほど話したでしょうか。情熱は十分に伝えました。しかし、聞き入ってくきれません。とうとう署長が切り札となる話をしてきました。

 

ASKAさん、警察官の我々も人なのです。部下たちにも家族があります。元旦は休ませてあげたいのです。どうか、ご理解ください。」

 

僕は、黙ってしまいました。そのとおりだなと。家族を持ち出されては、どうすることもできません。ほぼ、諦めの境地に入ってしまいました。その時です。

 

ASKAさん、今日はどうしたんですか?」

 

剣道仲間のひとりが、僕が署に訪れているということを聞いて部屋に入って来ました。

 

「おお!久しぶり。」

 

署長が言います。

 

「お知り合いですか?」

「ええ、先日も練習をさせていただいたばかりなんです。」

 

みなさんもご存じのように、警察官は「柔道」「剣道」らに、たいへん力を注いでおります。空気が変わりました。

 

「いや、実はね。カウントダウンを札幌でやりたくて署長にお願いに来てるんだよ。」

「で、やるんですか?」

「諸事情があって、難しそうなんだ。」

 

その彼が、署長に声をかけました。

 

「署長。やりましょうよ。やりましょう。やりましょう!」

 

暗雲から青い空が見え始めました。署長は困っています。「部下のために」とう説得でしたが、その部下が、やろうと言い出したのですから。彼は、警察署内で、それなりの立場を持っていたのでしょう。署長は言いました。

 

「少々、時間をいただけませんか?」

 

この時ほど、剣道をやっていて良かったと思ったことはありません。

 

それから間もなくして、許可が下りたのです。ライブをやれることになったのです。後は、タイムスケジュールどおりに、僕らが頑張るだけです。結果、ライブはすべて上手くいきました。

 

 

その警察官は言います。

 

「いやいや、僕の発言でそうなったのではありませんよ。署長が、ASKAさんの情熱に動かされたんですよ。」

 

もし、そうなのであれば、あの日、青森から半ば強引に署長に会いに行って良かったと、心から思っています。人との出会いが道を切り開いて行きます。署長の心の中の変化、本当の決心は、今でも分かりません。ただ、一言。「あの節は、本当にありがとうございました」と感謝を述べさせてください。

ASKA