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僕たち

僕たち

 

 

君と話をしていると時間が経つのが早い

僕たちはいつも言葉とじゃれ合っている

 

突然君が

「海が見たい」と言いだした

 

僕たちは手をつないで

岬のようになった堤防の先端まで歩いた

 

この先の向こうにある国の名前はわからなかったけど

街を歩く恋人同士の誰よりも

いちばん外国に近いところに立っていた

 

一日中繰り返している波のしぶきは

この国と外国を遮るバリケードのようだった

 

「少し寒いね」と僕が言う

「そんなことないよ」と君が返す

 

そして少しだけふたりは無口になった

 

僕が隣を振り向くと

君は人差し指を目元に立て

風で流された髪を束ねようとしていた

 

噛んでいたガムは

もうすっかり味がしない

 

遠くに浮かんだ船を見ていたとき

「あれタンカーだね」と君が先に言った

 

もうすぐ太陽が水平線の彼方に沈んで行く

船は太陽の道連れにされそうだった

 

僕は夜空に大きく浮かんだ月を自転車で横切って行く

映画ETの場面を思い出していた

 

どこからやって来たのか分からない小石を

僕はつま先で軽く海に向かって蹴ってみる

 

小石は放物線を描かなかった

無言で海に飛び込んで行った

 

僕たちはしばらくそこで黙ったあと

まるで打ち合わせしていたかのように海に背を向けた

 

どこかで僕たちを見ている人にとって

きっと僕たちは小さな影のように映っていたはず

 

太陽 

ひまわり 

アイスクリーム 

海辺の恋人

 

僕たちは詩人が使う

季語のようになって歩いていただろうか