春日原駅

春日原駅

 

 

その踏切では電車が通る度に駅員が旗を上げ

笛を吹き鳴らし

手動で遮断機を上げ下げていた

 

目の前を大きな茶色の電車が通過して行く

風圧に思わず後ずさりする

 

シュークリームを無造作に置いたような形をした春日原駅

それはその踏切を越えたところにあった

 

左にベンチがあり右に売店があった

売店の左斜め前にはガムの自動販売機が設置されていた

グリーン、フルーツ、梅

20円を入れ、レバーを捻るとガムは落ちて来る

 

首が痛いくらい顔を上げると

駅のひさしにはツバメの巣

 

この駅の向こうの坂道を上ったところに

大きな池があった

 

「あの池には龍の神様が住んでいらっしゃるとよ」

その池の名は「龍神池」

まだ幼子の僕にとって「龍神池」の響きは怖かった

 

駅の真ん中に改札口があって

制服を着た駅員が切符を切った

 

背伸びして差し出したいくつかの10円玉

僕は自分で切符を買うのが好きだった

 

改札をくぐり抜けて線路を渡り

そしてホームに上がる

 

こっち側が天神行きでね

向こう側が太宰府行きなんだ

 

天神に行けば岩田屋デパートの屋上に上がれる

太宰府に行けば「梅が枝餅」が食べられる

子供心に「電車に乗る」ということはそういうことだった

 

あの頃の駅はもうない

遠い昔の記憶風景

 

数年後に電車は高架になる

「それまで生きていられるかなぁ」と父が言う

人は年をとる毎に死を受け入れるようになっている

 

家もビルも商店街も

みんなが新しくなりたがる

 

街が変わるように

通りを歩く人の顔も入れ替わって行く

 

時代と共に消えていく

あの頃の景色

 

時代とはそういうもの

忘れ物のように記憶の片隅で今も息をしている