カラオケ

カラオケ

 

 

むしろ歌った後で後悔することの方が多い

勝手にイントロが流れマイクを手渡されるのだ

 

行かなければ済む話なのだが

付き合いというものはその隙を与えてはくれない

 

他人が歌っているのを見るのは楽しい

そこには責任がないからだ

 

お酒の席は嫌いじゃないが

カラオケはどうしても好きになれない

 

出し惜しみしているのではない

心と身体がすり減ってしまうのだ

 

もっと気楽に受け入れれば良いのだろうが

軽く歌って「こんなもんか」と思われたくはない

 

もともと聴き手との距離が近いほど

緊張は増す

 

その昔

デビューしてまだ間もない頃だった

ステージを終えた後

知り合いに連れられてスナックに行った

 

そのスナックは僕が訪れることを知ったお客さんで満杯だった

まだ対応など慣れていなかった頃だ

みんな色紙を持っていた

 

僕はひとしきりサインを書き終わると

翌日のこともあり席を立とうとした

 

そのとき僕の曲のイントロが流れ出したのだ

ステージで歌った後は急速に喉が冷えてゆく

まして冷たいものを飲んだ後では歌えない

 

僕はマイクを持たされたまま

苦笑いで断り続けた

 

カラオケは1番を終わり2番になった

お客さんは手拍子をする

 

そしてとうとう最後まで

ひとフレーズも歌わないまま曲は終わった

満員のお客さんたちの不満顔が見える

 

店を出るときだった

ママさんから手を握られ

「応援はしていますが、本当に感じが悪かった。

うちの店のカラオケでは歌えませんか。

こんなにファンが集まっているのに」

と真顔で言われたのだ

 

集まったお客さんから見れば

本当に感じの悪い行為だっただろう

僕は謝罪をして店を出た

 

カラオケにはトラウマがある

よほどのことがない限り歌うことはない

 

歌うときは真剣だ

ステージの上だけでいい