お買い物。

今日は、厚くも薄くもない雲に覆われた太陽の光が、僕の立つ窓を目がけて、まっすぐ伸びて来ています。

 

この滲んだ太陽、何だっけ・・・。

すぐに思い出しました。

 

ドバイでした。

あの地の太陽の滲みかたに似ていました。

 

アラブ首長国連邦のひとつ。

つまり、アラブとひとまとめに呼んでいる国々の中の、ひとつの国。

アラブの中で、最も若い国。

 

ドバイの王様は、ある意味ベンチャーなんですね。

それまで「砂漠に人は住めない」という定説に逆説で向き合いました。

 

今、世界は砂漠化が進んでいますが、王様は考えたんですね。

 

「この砂漠も、その昔はそうではなかったはず。この砂を深く掘ったところには、必ず土がある。この砂漠に都市を建設できないものだろうか・・・。」

 

そして、王様は実現に向かうために、全世界の資産家、セレブからお金を調達するんです。

 

砂漠を抜けてゆくところに、こつ然と現れる巨大都市ドバイ。

 

街のはずれは、建設ラッシュでした。

今も尚、砂漠が建物に押しのけられて行く。

 

まだ完成もしていないのに、買い手が決まっているマンション群。

すでに2年先まで、予約があるそうです。

 

どこもかしこも映画のセットのようでしたね。

 

僕の宿泊したホテルは、偶然にも、その王様が経営するホテルでした。

キラキラとは、この国のためにあるような言葉だと思いました。

小さなタイルひとつとっても眩しいのです。

 

なんだっけ・・・?

 

あ、そうそう。

買い物の話だ。これをしたかったんだ。

 

ホテル内には、ブランドショップが並んでました。

ここ10年くらいかな。

僕は、バッグを持つようになりました。

会社から、誕生日プレゼントにバッグを頂きましてね。

それまで、バッグを持って歩くという文化は僕にはありませんでしたが、一度持つと、もう離せませんね、あれ。

 

電話、充電器、財布、パソコン他・・・。

 

とにかく、便利なんです。

 

その並んだショップのひとつのドアをくぐりました。

バッグ屋さんでした。

 

僕は、昔から買い物に時間をかけません。

その日もそうでした。目に飛び込んで来たのは、表面が濡れたような光沢をした白いバッグでした。

「ポルシェ」と、書いてあります。「ポルシェ」って、バッグなどもあったんですね。一目惚れでした。

 

「すみません。これいくらですか?」

「ああ、ポルシェね。それ15万円です。」

「高いな・・・。」

 

海外です。値切ってみようと思ったんです。よくよく考えると、迷惑な客ですよね。ホテルのブランドショップで値切ろうとする客ですから。

 

15万か。ね、これもう少し安くなりませんか?」

「おー!?あなた、ラッキーですね。今、ちょうどセール中なんですよ。5万円でイイですよ。」

 

即買いでした。15インチのノートパソコンもいい具合に入るでしょう。こんなに気に入ったバッグは初めてです。

 

「セール中か・・・。」

 

僕は、急に強気になり、向かいのショップにも足を向けました。

広々とした店内の壁を隠すように、ぐるりと服がかけてありました。

 

僕は、常日頃、あまり買い物をしないので、この日ぐらいはいいだろうと思ったんです。海外ですし。セールですし。

買い物は早いです。

 

まず、目についたのは、目の覚めるようなブルー一色のスウェットでした。本当に奇麗です。スウェットと言っても、下はありません。おしゃれ感覚で着るスウェットデザインの上着ですね。

 

袖をとおしてみたら、出会いのようにピッタリでしたので、青と白の2着を買いました。その他、イタリアデザインの上着。スニーカーを。

 

久しぶりでしたね。洋服を買うなんて。

 

その夜は、刺激的でした。

砂漠の国です。昼間は、差すように太陽が熱いのですが、夜は、長袖を着ても、寒いのです。

 

ディナーは、キャンプと呼ばれる場所でした。

砂漠の片隅に、場所を確保したかのようにテントが張られ、そこでは大勢の観光客が溢れていました。

 

食事半ばで、突然ライトが落ち、どこかともなく妖艶な女性が現れ、スポットライトの中で踊るんです。

ベリーダンスです。アラビアンナイトの世界です。

 

何だっけ・・・?

あ、そうそう。

 

まぁ、楽しい旅だったという話です。

 

日本に戻ってからのことです。ある日、カード会社の明細を眺めていたのです。

 

「・・・。」

「なに?これ・・・。150万・・・えん・・・。」

「し、知りまふぇん・・・。」

 

一、十、百、千、万、十万、ひ、百・・・万・・・。

ひんむきました。目ん玉・・・。

 

ド、ドバイです。あのショップです。

 

「じょーじゃんじゃない!」

 

4点ですよ。スウェットですよ。たかが、ジャージですよ。

スニーカーですよ!!

 

何度も、見直しましたが、確かに150万円と書いてあります。

ぼられた・・・。

 

泣きそうな顔で、いや、泣きながら、そのドバイのショップに電話を入れました。

 

「◯月◯日に、買い物をした日本人ですが、おたく、計算を間違ってますよ!」

「何を買われました?」

「ブルーのスウェット、白のスウェット、スニーカー、それに・・」

「あーあなたですか?」

「覚えてますか?」

「もちろん、覚えてますよ。」

「今、明細を見たら150万でした。間違ってますよ。」

「はい。150万円です。」

「・・・。た、たきゃい!!たきゃすぐるでしょ!!」

「だって、あなた、サインをしたじゃないですか。」

 

そうなんです。バッグのショップがセール中だったので、店内、どこもセール中だと勝手に思い込み、日本の感覚で、このくらいだろうと思っての買い物でした。確かに、値札も見ずに買ってしまったのです。

 

カモられました・・・。

値札も見ずに買い物をしてるバカな日本人の動向を、観察した上でその値段にしてみたのでしょう。

すぐに気がつき、クレームを入れれば、

 

「おー!間っ違えた。ごっめんなさいねー。」

 

と、やるつもりだったのでしょう。

ところが、そのバカな日本人は、書かれた数字をニコニコしながら見ていたわけです。

確かに数字の数は多いなとは思ったのですが、ここはドバイ。通過であるディルハムって、どこのメーカーのハム?状態ですから、大して気にしなかったのです。相手は、有名ブランドショッップですし、そんな犯罪まがいのことはしないだろうと。

 

しやがっていたのです。

だいたい、毎日訪れる観光客。買ったモノを伝えただけで「あーあなたですか!」って変でしょ?

すでに1ヶ月近く経っているわけですから。

 

きっと、印象に残るバカ客だったわけです。わたしは・・・。ニコニコバカ・・・。

「サインをしてしまったら終わりだ」と・・・。

終わらせられました・・・。

 

ひ、ひゃくごじゅーまんえん・・・。

 

そんな話を、スタジオでしていたんですね。すると、そのときのレコーディングメンバーが。

 

ASKAさんもやられましたか?」

「え?なんで?」

「実は、僕、新婚旅行でドバイに行ったんです。ホテルは、もうドバイなので、キラキラだらけでしたけどね。そこで、朝食を食べたんですけど、やけにサービスが・・・。なんか、特別扱いされてるなと思ったんで、気持ち悪くなって、途中で切り上げたんです。」

「それで?オチは?」

「はい。7万円でした・・・。」

 

ドバイの王様は、世界一が好きなんです。

ぼり方も、世界一でした。

 

「もう一度行きたいですか?」と、聞かれたら、迷わず答えるでしょう。わたしは。

「あの店員に会いに行きたい」と。

 

トーク番組や旅番組など、絶対に出演しませんが、あの店員に会うのであれば、

話は別です。

 

ASKA