「恐怖旅館」 エピソード 1

この物語は、私の実体験です。
登場人物は、すべて仮名にさせてください。

その日、私たち一行は、沖縄の南「はいむるぶし島」から、石垣島へ船で渡り、
沖縄の中心地、那覇へ小型飛行機で向かい、そこから東京へと戻るはずでした。

しかし、石垣島の空港へ着いた私たちを待っていたのは、台風だったのです。

「なんや? 飛ぶんかいなぁ・・・?」

まるで私を、問い詰めるかのように話かけて来たのは、
関西をネジロとしている「円広志(仮名)」

通称、

「とんでマワ」

でした。

「やめんかい。オマエが言うたら、マジ飛ばんようになるやろ!こういうときは祈りなさいよ」

私は、その場を和ませるように、そう言いました。

「空、真っ黒じゃない? 何だか、怖い・・・。何かが起こりそう・・・」

小さな空港のロビーに置かれていた長椅子の端で、独り言のようにつぶやいたのは、
このパーティに参加した一人の女性「石川優子(仮名)」でした

そして、もうひとりは鹿児島出身、陸上自衛隊出身の「野元英俊(仮名)」
そのころ野元は、音楽団体「KING COLEA(キングクリー)」に所属しており、
その団体のベースとなる存在でした。

「優子、オマエ、なん怖がっとんか!おいが、オマエを守っちゃるけん、心配すんな」
「そうね。自衛隊出身の、のもっちゃんが居ると、安心かも・・・。」
「おう!おいが、身体張って守っちゃる!!なんか、あったら、おいのところに飛び込んでこい。」

すかさず、円広志(仮名)が、言いました。

「それ、ギャグぶって、ホンマは、抱きしめようとしとるんちゃうの?」
「わはは!円広志(仮名)、おいのこと、野元英俊(仮名)のこと見抜いとんなぁ!」

そんな会話で、一瞬ロビー内の空気は明るくなりましたが、
その明るさを、まるで奪い取りに来るような天候になりました。

その時でした。ロビー内にアナウンスが流れたのです。

「○○便、那覇行きは、本日台風のため欠航となります。お客様へは、大変ご迷惑おかけします。」

私以外のメンバーは、それさえも「旅の想い出」などと、はしゃいでいましたが、
私は、直ぐに不安を持ってしまったのです。

ホテルです。

私たちが、乗ろうとした便からが欠航となりました。
観光名所の石垣島です。
この時期、観光客で溢れかえっていますので、このメンバーが全員宿泊できるところなどないでしょう。

まだ、携帯電話などないころです。
私は、こう伝えました。

「とりあえず、タクシーで市内まで行こうや。通りに出りゃ、公衆電話があるんやないか?
 電話を見つけ次第、ホテルば探そうや」

タクシー乗り場には、丁度、2台停まっていました。

5人でしたので、2人と3人に分かれて乗りました。
これと言って行き先のない私たちは、とりあえず、2台並んで走ろうと。

私は、石川優子(仮名)と、同乗することになりました。

「助かった・・・」

とは、こういう時に使う言葉でしょう。
車に乗った途端に、嵐になったのです。
ワイパーが激しく動くのですが、それでも前方が見えません。

1時間ほどして、石川優子(仮名)が、気がついたのです。
3人が乗った車とは、はぐれてしまっていました。

「ねぇ・・・。この運転手、変じゃない?」
「なんで?」
「ここ観光地よ。愛想が悪すぎない?何か、怖い・・・」

そう言えば、この運転手とは、乗ってから一言も会話をしていなかったのです。

「運転手さん」
「・・・」

振り向きもしません。

「ねぇ、運転手さん!!」
「・・・」

ピクリとも反応がありません・・・。

「変よ!!この運転手!!絶対、変・・。怖い!!」

私は、自衛隊上がりの野元ではありませんが、隣で震えだした石川優子(本名)(仮名)の恐怖を取り除いてあげなくてはと、思ったのです。

私は、無言の運転手の肩を後部座席から掴みました。

「おい!!(ぐいっ)」

運転手は、急ブレーキを踏みました。

「なんで、返事ばせんとか!!」

振り向いた運転手は、その両手を耳元に振り上げ、私に掴みかかってくるような仕草をしました。
しかし、その手は運転手自身の耳を掴む仕草に変わりました。

「なんですか?」

耳からイヤフォンを外したのです。

ウォークマン聴いてました」
「は、外して、運転せんかい!!」
「あ、はい・・・」
「市内まで、何分かかっとるんかい!!」
「この台風さ。早く走ったら、風に飛ばされるさ。命、第一よ」

確かに、そうでした。
強風の中を速く走ると、車は吹っ飛ばされます。

先ほども言いましたように、当時は携帯電話がありません。
「並走する」ことで、目的地にたどり着こうとしていたのですが、
もう、3人とは離ればなれになってしまいました。



つづく・・・



ASKA(2018/4/28 0:26)

 

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