1通のメール

今日、もう昨日になるのか。

18時過ぎに、1通のメールがロックダムを通して送られて来ました。

あるミュージシャンの所属事務所からでした。

とても気持ちの込められた、そして気遣いで埋められた内容でした。

 

今回のアルバム制作で、ひとつの実験をやってみたのです。

若い、実力のあるマニピュレーターとスタジオに籠もりました。

マニピュレーターとは、ステージでも紹介していますが、音楽をデータで表す作業をする人(分かりやすく説明すると)のことです。

ステージ上では「頭脳」、そして「ミュージシャン」として紹介させてもらってます。

僕のメロディに反応した彼は、歌が歌になるように素早く音で包み込みます。

とても刺激的でした。

 

僕は、毎度歌うごとにメロディやコードが変化していきますので、メロディが決まるまでは、黙って見ていてくれてもいいのですが、彼は、何度も何度も僕のメロディを追うように、服を着せ替えて行きました。

彼も、僕の曲ができてゆく様に興味があったようで、コードワークや歌詞についての質問をしてきました。

 

「音楽にとても真っ直ぐな人」

 

というのが、彼に抱いた印象でしたね。

彼の音作りに感心した僕は、言いました。

 

「○○君、データの打ち込み、見事だね。こんな短い時間で。」

「いえ、いえ。」

「ね、プリプロの域を超えてる気がするんだ。もう、これはアレンジだよ。

この曲、アレンジャーを立てないで、ふたりで完成させよう。」

 

この投げかけは、実際のできごととなり、

完成した3曲のうち、2曲が彼との作品になりました。

 

その後、楽器を生音に替える作業では、彼の集めたミュージシャンで場が進行してゆきました。

初めて会う、若いミュージシャンがスタジオに並びます。

僕の知っている空気とは、確かに違います。

ひとりひとりの本気が発揮されました。

簡単な表現ですが、率直に驚きましたね。

こんな素晴らしいミュージシャンが育ってるのかと。

音楽に対してのしつこさは同じでした。

 

まだ、歌詞は無い状態でしたが、メロディとサウンドの絡み合いが気持ち良く、

「この曲はシングルかもしれない」と、密かに思いました。

 

そして今日、

文字とは不思議なもので、その人の感情、気遣いなど、すべてを込めることができます。

メールの内容は、とても紳士的でした。

その上で、「今回のアルバムからは辞退させて頂きたい」との趣旨でした。

若い、そして才能のあるミュージシャンの障害になることは、決して望みません。

今の僕ではないということです。

その判断に間違いは感じていません。皆、誰もが世間の風を浴びながら、その人の歩幅でひとつひとつ前に進んで行きます。

向かい風に、目を細めてしまうのは当然です。

歩く人にとっての、自然な仕草であり、行為だからです。

 

今、僕が浴びているのは「社会の風」です。

 

すべてにおいて、黙することは「正」であり、また「誤」のようです。

答えなどありませんが、答えのようなものはいつも見え隠れしています。

それが、見えているのなら、そこに向かって歩いて行くことは自然です。

自然は作って行くものではありません。

自然は作られて行くものです。

意志だけは手放さず。そして、それを見る人たちによって作られて行く。

僕が自然になるためには必要な過程です。

 

みなさんには13曲とお伝えいたしました。

ミックスダウンはこのままつづけようと思っています。

11月に入れば、また見えて来る景色もあるでしょう。

 

さて、もう一度、その曲を最初から作り直しです。

1月までは、まだ時間はあります。

仲間が居ます。先ほど、その打ち合わせが終わりました。

人生はドラマですね。

見ていてくれる人たちがいれば、そんなドラマも作品となって行きます。

誰かにこう言ってもらえたら、それでいいかな。

 

「あいつ、大股で歩いて行きやがった・・・。」

 

社会の風は、2年後に吹き止むでしょうか。

きっと、そうはならないでしょう。

「今を強く生きる」

「元気か自分」

やはり、これなのだと思います。

 

ASKA