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記憶

みなさんは、出会い、縁、不思議な話がお好きなようですね。みなさんが、仰るように、僕にはそういう体験が、山ほどあります。では、もうひとつだけ、そんな話をしますね。

 

これも、10年ほど前のことです。出会いは、あるパーティでした。その女性は30代半ばの、とても品のある素敵な女性でした。そのパーティが1時間ほどした時、その女性と隣り合わせになったのです。話は普通に進んで行きました。そして、話の最中に「あれ?」っと、思ったのです。

 

「ね、以前一度どこかでお会いしていますよね?」

「いえ、初めてですよ。」

「そうですか・・。そんな気がしちゃって。」

 

その女性は、日本の伝統文化、作法を教える職業の方でした。

 

それから、数ヶ月後、一緒に相撲観戦に行くことになったのです。相撲の枡席は、4人用なのですが、大人4人です。あれは狭すぎますね。僕は、前に座り、その女性は僕の斜め後ろに座ることになりました。野球とは違って、相撲は、売り子さんなどがいません。その変わり、予め弁当などがついているのです。

照明に照らされた力士の身体は、美しく、観戦を楽しんでいました。その女性に背中から声をかけられましたので、振り返りました。たわいもない話です。

その時、彼女が真っすぐ僕の目を見てくれた時に、またもや、思ったのです。

 

「あれ?やっぱり以前にお会いしてますよ。」

「そうですか?そんなことないですよ。」

「おっかしいなぁ・・。似てるとか、そういうことではなくて、覚えてるんですけどねぇ・・。」

「誰にも、そんなこと仰ってるんでしょ?」

「ええ。まぁそういうところはありますけど(笑)」

 

僕には、何というか分かりませんが、一度会うと、その人の顔を忘れないという特技があるのです。子供の頃からそうでした。もし、僕に病気があるとするならば、これが病気なのだと思っています。デビューの頃、全国を回りましたが、ラジオ局、取材をしてくれた方、プロモーターの方などの顔が、脳にすり込まれていますので、二度目にお会いした時には、

 

「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「覚えていますか?」

「もちろん。○○の話もおぼえていますよ。」

 

相手も、覚えられていたということで、喜んでくれ、直ぐに応援、仲間となってくださいました。

 

その女性と、再びパーティでお会いした時です。話の最中に、とても印象に残る笑顔をされたのです。

 

「ちょっと待って。何度もすみません。絶対に以前お会いしてますよ。」

「そうですかぁ?」

「はい。今の笑顔。間違いはありません。」

 

彼女は、ためらいながら言いました。

 

「はい。実は、一度だけお会いしたというか、すれ違い程度なので、まさかと思って、そう言って来たんです。」

 

一気に、記憶をめくったのですが、それがどこでどんな出会いだったのかが思い出せませんでした。

 

「どこで、お会いしましたっけ?」

「いえ、いえ、ありえませんから。そう言っていただいただけでも光栄です。」

「本当に、覚えてるんです。」

「そうですかぁ?」

「はい。覚えています。」

「今の、笑顔と、同じ笑顔をされました。どこですか?」

「イタリアです。」

 

僕は、ロンドンに住んでいる頃。家族でイタリア旅行をしたことがありました。

そして、記憶は現れました。

 

「あっ!あの時の新婚さんだ!コロシアムの前で、僕に気づかれて、ニコっとされましたよね?」

「だって、一瞬ですよ。」

「僕は、あなたにお辞儀をしたじゃないですか。しっかり、覚えてますよ。」

「それが、本当だとしたら、ものすごい記憶でいらっしゃいますね。」

 

コロシアムの入り口で、新婚さんと思われるカップルが、30メートル程の距離から、僕を見つめていましたので、それに気がついた僕は、笑顔でお辞儀をしたことがあったのです。僕は、人の顔を覚えるとき、目を見ます。もちろん、全ての人の顔を覚えるわけではありませんが、印象に残った人の顔、目は忘れません。写真のようにインプットされるのです。人生において、再び出会うことになる人だけなのかもしれません。

ASKA